渋く、つやを抑えてある漆器が、使えば使うほど深い輝きを増してゆく。石川県輪島市の塗師、鵜島啓二さんが作るつや消し椀は、光沢を帯びる漆黒の器という輪島塗のイメージとは一味違う趣だ。「使う人に愛着を持ってもらおうと願って作るよ」。話しながらも手は休めず、背筋がすっと伸びている。
鵜島さんの塗りは、つやを消して赤と黒を重ね塗りする独自の手法。きっかけは、漆器作りを継ぐことをやめた若者が塗った椀を見たこと。塗りはたどたどしく、伝統的な輪島塗には程遠い物だった。しかし、「美しくはなかったが、何か引き付けられた」と鵜島さんは回想する。不思議な魅力が鵜島さんをとらえ、その後半年間、試行錯誤を繰り返した。そして、輪島にはなかった漆器が生まれた。
漆を丹念に塗り重ねるところまでは同じ。その後のつや出し工程を思い切って省き、仕上げてみた。輪島塗の持ち味の「ぬくもり感」がしみじみと深く、「毎日表情が違い、使い込むうちに輝きが増す」という。漆器屋からも「鵜島さんの塗り方で」と依頼が来るようになった。「自分独自の器を作っている、今の方が面白い」と鵜島さん。
使い手との結び付きを求めて若手職人らとともに、2000年3月に「ギャラリーわいち」を同市内にオープンした。ギャラリーのモットーは「うるしはともだち」。もともと鵜島さんが展示会で使った言葉を、仲間が拝借した。「漆は生きている。漆と友達にならないと漆が怒り、漆にかぶれる」。跡継ぎはいないが、「こういう時代なのだから仕方がない」と割り切り、「うるしはともだち」の心を若手に伝えていくつもりだ。
(北國新聞 記事より抜粋)
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